この記事の要点
- はじめに|PERだけでは見えない「会社の本当の値段」があります
- EV/EBITDA倍率とは?
- EV(企業価値)とは
- EBITDAとは
- PERとEV/EBITDA倍率の違い
カテゴリ:米国株・財務指標・バリュエーション分析
はじめに|PERだけでは見えない「会社の本当の値段」があります
前回はPEGレシオを使って、高PERの成長株が本当に割高なのかを見極める方法を解説しました。今回はシリーズ第3回として、プロの投資家やM&Aの現場でもよく使われるEV/EBITDA倍率(イーブイ・イービットディーエー倍率)を取り上げます。
PERはとても便利な指標ですが、「会社が抱えている借金」や「手元に積み上げた現金」の違いまでは反映できません。同じPER20倍の2社でも、片方は借金ゼロで現金たっぷり、もう片方は多額の借金を抱えている…ということは珍しくありません。
EV/EBITDA倍率を使えば、こうした財務構造の違いをならしたうえで、企業同士の割安度を比べられます。この記事では、計算式から目安、使い方、注意点までを順番にわかりやすく解説します。
EV/EBITDA倍率とは?
EV/EBITDA倍率とは、「会社をまるごと買収するのに必要な金額(EV)が、本業で稼ぐキャッシュ創出力(EBITDA)の何年分にあたるか」を示す指標です。数値が低いほど割安、高いほど割高と判断されるのが基本です。
EV/EBITDA倍率 = EV(企業価値) ÷ EBITDAEV(企業価値)とは
EV(Enterprise Value)は、会社を買収するときに実質的に必要となる金額を表します。
EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現金・現金同等物- 時価総額:株式をすべて買い取るのに必要な金額です
- 有利子負債:買収すると借金も引き継ぐため、その分を加えます
- 現金:買収すれば会社の現金も手に入るため、その分を差し引きます
つまりEVは「株主の取り分」だけでなく「債権者の取り分」も含めた、会社全体の値段だと考えるとわかりやすいです。
EBITDAとは
EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)は、利払い前・税引き前・減価償却前の利益のことです。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費(有形・無形資産の償却費を含む)支払利息・税金・減価償却といった「国ごとの税制」「借金の多さ」「過去の設備投資の会計処理」に左右される項目を取り除くことで、本業がどれだけ現金を生み出す力を持っているかを比べやすくした利益です。損益計算書とキャッシュフロー計算書の読み方は、財務諸表入門シリーズもあわせて確認してください。
PERとEV/EBITDA倍率の違い
2つの指標の違いを表で整理します。
具体例:PERが同じでも評価は大きく変わります
架空の2社で比べてみましょう(単位:億ドル)。
【A社】時価総額1,000/有利子負債0/現金200/EBITDA100/純利益50
PER = 1,000 ÷ 50 = 20倍
EV = 1,000 + 0 − 200 = 800
EV/EBITDA = 800 ÷ 100 = 8倍
【B社】時価総額1,000/有利子負債500/現金0/EBITDA100/純利益50
PER = 1,000 ÷ 50 = 20倍
EV = 1,000 + 500 − 0 = 1,500
EV/EBITDA = 1,500 ÷ 100 = 15倍PERはどちらも20倍で同じですが、EV/EBITDA倍率ではA社が8倍、B社が15倍と大きな差が出ます。B社を買収すると500億ドルの借金も背負うことになるため、会社全体として見るとB社のほうが割高だとわかります。PERだけを見ていると気づけない差を、EV/EBITDA倍率が浮かび上がらせてくれるのです。
EV/EBITDA倍率の目安
一般的に、EV/EBITDA倍率はおおむね10倍前後が一つの基準とされ、それより低ければ割安、高ければ割高と見られることが多いです。ただし、適正な水準は業種によって大きく異なります。以下はあくまで大まかなイメージです。
大切なのは、絶対的な数値だけで判断せず、同業他社や過去の自社平均と比べることです。たとえば、ある企業の倍率が過去5年平均を大きく下回っていれば、市場から過小評価されている可能性を検討するきっかけになります。
EV/EBITDA倍率が特に役立つ場面
① 借金の多い企業同士を比べるとき
通信、公益、エネルギーなど多額の借入で設備を整える業種では、借金の有無を反映できるEV/EBITDA倍率が有効です。
② 国や税制が異なる企業を比べるとき
税引き前の利益を使うため、米国企業と海外企業のように税率が違う企業も比較しやすくなります。
③ 純利益が一時的に赤字・低水準のとき
多額の減価償却や一時的な損失で純利益が小さくなり、PERが極端に高く出てしまう企業でも、EBITDAベースなら本業の実力で評価できます。
④ M&A(買収)の妥当性を考えるとき
買収価格の評価にもよく使われるため、「この会社が買収対象になったらいくらが妥当か」を考える目安にもなります。
使うときの注意点
便利なEV/EBITDA倍率にも弱点があります。次の点に注意しましょう。
・設備投資の重さが見えにくい
→ EBITDAは減価償却を足し戻すため、毎年多額の設備投資が必要な企業を実態より良く見せることがあります
・株式報酬などの調整に注意
→ 企業が発表する「調整後EBITDA」は、株式報酬費用などを除外して数字を大きく見せている場合があります
・金融株には使いにくい
→ 銀行や保険会社は負債が「商品(事業そのもの)」のため、EVの考え方がなじみません
・データの算出方法がサイトごとに異なる
→ 有利子負債にリース負債を含めるかなどで数値が変わるため、同じ情報源で比較しましょう特に1つ目は重要です。EBITDAが大きくても、設備投資で現金が出ていってしまえば株主に残るお金は増えません。EV/EBITDA倍率を見るときは、フリーキャッシュフロー(営業CF−設備投資)もあわせて確認するのがおすすめです。
実践!EV/EBITDA倍率の調べ方と活用ステップ
米国株のEV/EBITDA倍率は、証券会社の銘柄情報ページや、Yahoo!ファイナンス(米国版)の「Statistics」欄などで「Enterprise Value/EBITDA」として確認できます。実際の活用は次の手順で進めるとスムーズです。
ステップ1:気になる銘柄のEV/EBITDA倍率を調べる
ステップ2:同業他社3〜5社の倍率と並べて比較する
ステップ3:その企業の過去5年程度の平均倍率と比べる
ステップ4:PER・PEGレシオ・フリーキャッシュフローもあわせて確認する
ステップ5:割安な理由(業績悪化・一時要因など)がないかをニュースや決算で確認する1つの指標だけで「買い」「売り」を決めるのではなく、複数の指標を組み合わせて多角的に判断することが、失敗を減らす近道です。
まとめ
・EV/EBITDA倍率=会社全体の値段(EV)が本業のキャッシュ創出力(EBITDA)の何年分かを示す指標
・EV=時価総額+有利子負債−現金。借金や現金の差を反映できる
・PERが同じでも、借金の多い企業はEV/EBITDA倍率が高く出る
・目安は10倍前後だが、業種差が大きいので同業比較・過去比較が基本
・設備投資の重い企業や金融株では注意し、フリーキャッシュフローも確認するPER・PBR、PEGレシオに続いてEV/EBITDA倍率を使いこなせるようになると、企業の割安度をより立体的に判断できるようになります。気になる銘柄で実際に計算して、同業他社と比べてみましょう。
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本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資勧誘ではありません。投資は自己責任のもとで行ってください。制度の詳細は金融庁公式サイトをご確認ください。
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