この記事の要点
- はじめに|「この株は本当はいくらの価値があるのか?」に答える方法
- DCF法とは?考え方の基本
- DCF法の計算手順【5ステップ】
- 具体例:架空のA社で理論株価を計算してみよう
- 前提条件
カテゴリ:米国株・財務分析・バリュエーション
はじめに|「この株は本当はいくらの価値があるのか?」に答える方法
ここまでのシリーズでは、PER・PEGレシオ・EV/EBITDA・FCF利回り・ROICなど、企業の割安度や稼ぐ力を測る「ものさし」を1つずつ見てきました。ただ、これらはいずれも「他社や過去と比べて高いか安いか」を判断する相対評価の指標です。
一方で、「この企業の株は理論的には1株いくらの価値があるのか」を直接計算しようとする方法があります。それが今回のテーマであるDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)です。
DCF法は、プロのアナリストやM&Aの現場でも使われる本格的な企業価値評価の手法です。難しそうに見えますが、考え方の骨組みはとてもシンプルです。この記事では、計算の手順を具体的な数字で追いながら、個人投資家が実際に使うときの注意点まで解説します。
DCF法とは?考え方の基本
DCF法の考え方は、次の一文に集約されます。
企業の価値 = その企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)の合計を、
「今の価値」に割り引いたものポイントは「割り引く」という部分です。今日の100ドルと10年後の100ドルは同じ価値ではありません。今日の100ドルを年8%で運用できれば、1年後には108ドルになります。逆に言えば、1年後の108ドルは今の100ドルと同じ価値しかありません。この「将来のお金を今の価値に直す」作業を割引(ディスカウント)と呼びます。
現在価値 = 将来のキャッシュフロー ÷ (1 + 割引率)^年数割引率には通常、前回の記事で登場したWACC(加重平均資本コスト)を使います。投資家が「最低でもこれくらいのリターンはほしい」と考える水準のことです。
DCF法の計算手順【5ステップ】
DCF法は、次の5つのステップで進めます。
ステップ1:今後5〜10年のFCFを予想する
ステップ2:割引率(WACC)を決める
ステップ3:予想期間より先の価値(ターミナルバリュー)を計算する
ステップ4:すべてを現在価値に割り引いて合計し、企業価値(EV)を出す
ステップ5:純有利子負債を差し引き、発行済株式数で割って理論株価を出すそれでは、架空の企業「A社」を例に、実際に計算してみましょう。
具体例:架空のA社で理論株価を計算してみよう
前提条件
直近のFCF :100億ドル
今後5年間のFCF成長率:年10%
割引率(WACC) :8%
永久成長率 :2.5%(6年目以降の成長率)
純有利子負債 :200億ドル
発行済株式数 :20億株
現在の株価 :100ドルステップ1・4:5年間のFCFを予想し、現在価値に割り引く
ステップ3:ターミナルバリューを計算する
企業は5年で終わるわけではありません。6年目以降もずっと事業を続けると仮定して、その価値をまとめて計算したものがターミナルバリュー(継続価値)です。一般的には次の式(永久成長モデル)を使います。
ターミナルバリュー = 6年目のFCF ÷ (割引率 − 永久成長率)
= 161.1 × 1.025 ÷ (0.08 − 0.025)
≒ 3,001億ドル
現在価値に割り引くと:3,001 ÷ 1.469 ≒ 2,042.7億ドルステップ5:理論株価を求める
企業価値(EV) = 528.5 + 2,042.7 ≒ 2,571億ドル
株主価値 = 2,571 − 200(純有利子負債)= 2,371億ドル
理論株価 = 2,371億ドル ÷ 20億株 ≒ 118.6ドル現在の株価100ドルに対して理論株価は約118.6ドルなので、A社は理論値より約16%安く取引されていると判断できます。
DCF法の最大の落とし穴|前提条件で結果が大きく変わる
ここまで読んで「便利な方法だ」と感じたかもしれません。しかし、DCF法には大きな弱点があります。それは、前提条件を少し変えるだけで結果が大きく動くことです。
A社の例で、割引率と永久成長率を少しずつ変えたときの理論株価を見てみましょう。
割引率を1%動かすだけで、理論株価は92ドルから165ドルまで大きく変わります。「割安」にも「割高」にも、前提次第でどちらにも見えてしまうのです。
さらに注目したいのが、企業価値の約79%をターミナルバリューが占めている点です。つまり、DCF法の結果の大部分は「6年目以降、永遠にこの成長が続く」という仮定に依存しています。
個人投資家がDCF法を使うときの4つのコツ
コツ1:1つの数字ではなく「幅」で考える
理論株価は「118.6ドル」とピンポイントで決めるのではなく、上の表のように「92〜165ドルの範囲」として捉えましょう。現在の株価がその範囲の下限より安ければ、割安の可能性が高いと判断できます。
コツ2:安全域(マージン・オブ・セーフティ)を確保する
予想は外れるものです。理論株価より20〜30%以上安いときに買うようにすると、予想が多少外れても損失を抑えやすくなります。
コツ3:保守的な前提を置く
・FCF成長率は過去の実績や会社予想より控えめに
・永久成長率は長期の名目GDP成長率(2〜3%程度)を上限に
・割引率は低く設定しすぎない(米国大型株なら7〜10%程度が目安)永久成長率が割引率に近づくほど、ターミナルバリューは無限大に膨らみます。楽観的な前提は避けましょう。
コツ4:「逆DCF」で市場の期待を読む
慣れてきたら、現在の株価から逆算して「市場は何%の成長を織り込んでいるか」を調べる「逆DCF」も役立ちます。たとえば現在の株価が年20%成長を前提にしないと説明できない水準なら、期待が高すぎる可能性があると判断できます。
DCF法が向いている企業・向いていない企業
FCFが赤字の成長株には前々回のPSRやルール・オブ・40、金融株にはPBRやROEなど、企業のタイプに合った指標と組み合わせることが大切です。
まとめ|DCF法は「答え」ではなく「考えるための道具」
・DCF法は将来のFCFを現在価値に割り引いて理論株価を求める絶対評価の手法
・割引率にはWACC、6年目以降の価値はターミナルバリューで計算する
・前提を少し変えるだけで結果が大きく動くため、幅で考えることが重要
・安全域を確保し、保守的な前提で計算するのが基本
・逆DCFで「市場が織り込んでいる成長率」を確認するのも有効DCF法の本当の価値は、正確な株価を当てることではありません。「この株価を正当化するには、どれだけの成長が必要なのか」を自分の頭で考えるきっかけになることです。PERやFCF利回りなどの相対評価とあわせて使い、銘柄選びの精度を高めていきましょう。
関連記事
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資勧誘ではありません。投資は自己責任のもとで行ってください。制度の詳細は金融庁公式サイトをご確認ください。
タグ: #財務指標 #バリュエーション #DCF法 #理論株価 #米国株 #資産形成 #投資初心者 #東京米国株クラブ
