この記事の要点
- はじめに|赤字の成長株は「PER」では測れません
- PSRの基本|計算式と意味
- PERとPSRの違い
- 業種別のPSRの目安
- PSRと粗利率はセットで確認しましょう
カテゴリ:財務指標・米国株投資・企業分析
はじめに|赤字の成長株は「PER」では測れません
前回の記事では、粗利率・営業利益率・純利益率を使って、企業の稼ぐ力の質や価格決定力を見抜く方法を解説しました。
第8回となる今回は、PSR(株価売上高倍率)を取り上げます。シリーズ第1回で解説したPERは「利益」をもとに割安度を測る指標ですが、まだ赤字のグロース企業や、利益が一時的に大きく落ち込んでいる企業ではPERが計算できない、あるいは極端な値になってしまいます。
そこで役立つのが、利益ではなく売上高を基準に株価の水準を測るPSRです。米国のSaaS企業やバイオ企業、上場して間もない成長企業を分析するときによく使われます。この記事では、PSRの計算式・目安・注意点と、成長株の評価で一緒に使われるルール・オブ・40の考え方までわかりやすく解説します。
PSRの基本|計算式と意味
PSRは「Price to Sales Ratio」の略で、時価総額が年間売上高の何倍になっているかを示します。
PSR = 時価総額 ÷ 年間売上高
= 株価 ÷ 1株あたり売上高(SPS)
【計算例】
時価総額:1,000億ドル
年間売上高:100億ドル
→ PSR = 1,000 ÷ 100 = 10倍PSR10倍とは、「市場がこの企業の売上高の10年分の価値をつけている」という意味です。数値が低いほど売上に対して株価が割安、高いほど割高(または高い成長を期待されている)と考えられます。
米国株の情報サイトでは「P/S」「Price/Sales (TTM)」などと表記されます。TTMは直近12か月(Trailing Twelve Months)の実績、「Forward」は来期予想の売上高を使った数値です。
PERとPSRの違い
売上高は、会計上の一時的な特別損益や税金の影響を受けにくく、利益よりも操作しにくい数字です。そのため、PSRは利益が不安定な企業を比較するときに安定した物差しになります。
一方で、PSRには「その売上からどれだけ利益が残るか」が一切反映されません。これがPSRの最大の弱点です。
業種別のPSRの目安
PSRの適正水準は、業種の利益率によって大きく異なります。
※上記はあくまで一般的な目安であり、金利環境や市場のセンチメント、企業ごとの状況によって大きく変わります。
ここで大切なのは、PER・利益率と同じく、PSRも必ず同じ業種内で比較することです。PSR1倍の小売企業とPSR10倍のソフトウェア企業を比べて「小売企業の方が割安」と判断するのは誤りです。
PSRと粗利率はセットで確認しましょう
PSRの弱点である「利益率が反映されない」問題を補うには、前回解説した粗利率と組み合わせるのが効果的です。
架空の2社で比べてみましょう。
PSRだけを見るとD社の方が半分の水準で割安に見えます。しかし、売上ではなく粗利(売上総利益)を基準に計算し直すと、C社は粗利の10倍、D社は粗利の16倍となり、評価が逆転します。
時価総額 ÷ 粗利 = PSR ÷ 粗利率
C社:8倍 ÷ 0.80 = 10倍
D社:4倍 ÷ 0.25 = 16倍このように、粗利率が高い企業ほど高いPSRが正当化されやすいのです。PSRを見るときは必ず粗利率を確認しましょう。
成長株の評価に使われる「ルール・オブ・40」
高PSRのSaaS企業などを評価するときに、米国の投資家やアナリストがよく使うのがルール・オブ・40(Rule of 40)です。成長と収益性のバランスを1つの数字で確認できます。
ルール・オブ・40 = 売上高成長率(%)+ 利益率(%)
※利益率にはFCFマージン(FCF÷売上高)または営業利益率を使うのが一般的です
【判定の目安】
・40%以上 → 成長と収益性のバランスが良い優良企業
・40%未満 → 成長か収益性のどちらかが物足りない
【例】
E社:売上成長率 35% + FCFマージン 15% = 50% → 基準クリア
F社:売上成長率 25% + FCFマージン −5% = 20% → 基準未達赤字でも売上成長率が50%を超えていればクリアできますし、成長率が10%台でも利益率が30%あれば基準を満たします。ルール・オブ・40を満たしている企業は高いPSRでも市場から評価されやすく、満たしていない企業の高PSRは危険信号と考えることができます。
PSRを使うときの注意点
【PSR分析の落とし穴】
・PSRが低くても、赤字が続けば株価は上がらない(バリュートラップ)
・借金の多さが反映されない(気になる場合はEV/売上高倍率を使う)
・高PSRの銘柄は、成長鈍化や金利上昇で株価が大きく下がりやすい
・M&Aで売上が急増した企業はPSRが一時的に低く見えることがある
・過去のバブル期には、PSR数十倍の銘柄が軒並み大きく下落した特に注意したいのが、高PSR銘柄の成長鈍化リスクです。PSR20倍の企業は、将来の高成長を前提に株価がつけられています。成長率が市場の期待を少しでも下回ると、PSRそのものが切り下がり、売上が伸びていても株価が大きく下落することがあります。
また、有利子負債が多い企業では、シリーズ第3回で解説したEV/EBITDAと同じ発想で、時価総額の代わりにEV(企業価値)を使うEV/Sales(EV/売上高倍率)を確認すると、より実態に近い比較ができます。
まとめ|PSRは「成長株の割高度」を測る補助線です
【この記事のポイント】
・PSR = 時価総額 ÷ 年間売上高
・赤字の成長株や利益が不安定な企業でも使える
・利益率が反映されないため、粗利率とセットで確認する
・業種によって適正水準が大きく異なるため同業種内で比較する
・成長株はルール・オブ・40(成長率+利益率≧40%)も確認する
・高PSR銘柄は成長鈍化時の株価下落リスクが大きいPSRは、PERが使えない成長企業の株価水準をつかむための便利な物差しです。ただし、PSRだけで割安・割高を判断するのではなく、粗利率・成長率・FCFなどこれまで解説してきた指標と組み合わせて総合的に判断しましょう。気になるグロース株を見つけたら、まずはPSRと粗利率、ルール・オブ・40の3点をチェックするところから始めてみてください。
次回も、米国株の銘柄選びに役立つ財務指標をわかりやすく解説していきます。
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本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資勧誘ではありません。投資は自己責任のもとで行ってください。制度の詳細は金融庁公式サイトをご確認ください。
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