この記事の要点
- はじめに|ROICは「事業そのものの稼ぐ力」を測る指標です
- ROICの計算式
- 計算例(架空の企業)
- ROICとROEの違い
- ROICの目安
カテゴリ:米国株・財務分析・銘柄選び
はじめに|ROICは「事業そのものの稼ぐ力」を測る指標です
前回はPSR(株価売上高倍率)を取り上げ、赤字の成長株の割安度を測る方法を解説しました。シリーズ第9回となる今回は、プロの投資家やウォーレン・バフェット流の「優良企業選び」で特に重視される ROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率) を解説します。
第4回で扱ったROEは「株主のお金でどれだけ稼いだか」を示す指標でした。しかしROEは借金を増やすだけでも高く見せられるという弱点があります。ROICは、株主のお金と借入金の両方を合わせた「事業に投じたお金全体」に対して、どれだけ利益を生んだかを測ります。そのため、財務の工夫に左右されにくく、事業そのものの実力を比べやすいのが大きな特徴です。
この記事を読むと、次のことがわかります。
・ROICの意味と計算式
・ROEとの違いと使い分け
・WACC(資本コスト)と比べて「価値を生む企業」を見抜く方法
・ROICの推移から競争優位(モート)を判断するコツ
・ROICを使うときの注意点ROICの計算式
ROICの基本的な計算式は次のとおりです。
ROIC = NOPAT ÷ 投下資本 × 100(%)
NOPAT(税引後営業利益)= 営業利益 ×(1 − 実効税率)
投下資本 = 有利子負債 + 株主資本
(または 運転資本 + 固定資産 など事業側から計算)ポイントは、分子に NOPAT(税引後営業利益) を使うことです。支払利息を差し引く前の利益なので、借入が多いか少ないかに関係なく、本業の稼ぐ力を比較できます。
計算例(架空の企業)
営業利益 :100億ドル
実効税率 :20%
NOPAT :100 ×(1 − 0.2)= 80億ドル
有利子負債 :150億ドル
株主資本 :250億ドル
投下資本 :400億ドル
ROIC = 80 ÷ 400 = 20%この企業は、事業に投じた1ドルあたり年間0.2ドルの税引後利益を生んでいることになります。
ROICとROEの違い
ROICとROEは似ていますが、見ている範囲が異なります。違いを表で整理しましょう。
米国企業は積極的な自社株買いで株主資本が極端に小さくなり、ROEが数十%〜100%超になるケースもあります。こうした場合、ROEだけでは実力を判断しにくいため、ROICを併用するのがおすすめです。
ROICの目安
ROICの水準は業種によって差がありますが、一般的な目安は次のとおりです。
ROIC 5%未満 :資本効率が低い(資本コストを下回る可能性)
ROIC 8〜10%前後:平均的な水準
ROIC 15%以上 :高い資本効率(競争優位を持つ可能性)
ROIC 20%以上 :非常に優秀(強力なモートの可能性)ソフトウェアやブランド力の強い消費財企業は、工場や設備への投資が少なく済むためROICが高くなりやすい傾向があります。一方、電力・通信・素材など設備投資が重い業種はROICが低めになりやすいため、同業他社と比較することが大切です。
最重要ポイント|ROICとWACCを比べましょう
ROICを本当に活かすには、WACC(加重平均資本コスト) と比べることが欠かせません。WACCとは、企業が株主と債権者から資金を集めるために「最低限求められるリターン」のことです。米国の大企業では、おおむね7〜10%程度になることが多いといわれています。
ROIC > WACC → 事業が企業価値を生み出している
ROIC = WACC → 価値を生んでも壊してもいない
ROIC < WACC → 成長するほど企業価値を壊しているこの差(ROIC − WACC)は 「エコノミック・スプレッド」 と呼ばれます。たとえばROICが20%、WACCが8%なら、スプレッドは12%です。このような企業は、利益を再投資して事業を拡大するほど企業価値が高まっていきます。
反対に、ROICがWACCを下回る企業は、売上が伸びていても株主にとっては価値が増えていない可能性があります。「成長しているのに株価が上がらない」企業を見かけたら、ROICとWACCの関係を確認してみましょう。
ROICの推移から競争優位(モート)を見抜く方法
ROICは1年分だけでなく、5〜10年の推移で見るのがポイントです。高いROICが長く続いている企業は、ライバルが簡単に参入できない「堀(モート)」を持っている可能性が高いからです。
第7回で解説した利益率(営業利益率)と組み合わせると、さらに理解が深まります。ROICは次のように分解できます。
ROIC = NOPATマージン(NOPAT ÷ 売上高)
× 投下資本回転率(売上高 ÷ 投下資本)「利益率が高いから高ROICなのか」「少ない資本で効率よく売上を上げているから高ROICなのか」を分けて見ることで、その企業の強みの源泉がわかります。
ROICを使うときの注意点
ROICは便利な指標ですが、次の点に注意しましょう。
① 計算方法がサイトや企業によって異なる
→ 比較するときは同じデータソースを使う
② 大型買収でのれんが増えると一時的にROICが下がる
→ のれんを除いたROICも参考にする
③ 研究開発費やブランド投資は資産に計上されにくい
→ ソフトウェア企業などはROICが実態より高く出やすい
④ 株価の割安・割高は判断できない
→ PERやFCF利回りなどのバリュエーション指標と併用する特に④が重要です。ROICは「良い企業」を見つける指標であり、「安く買えるかどうか」は別の問題です。高ROIC企業は市場でも人気が高く、株価が割高になっていることも少なくありません。第1回〜第3回、第5回で解説したPER・PEGレシオ・EV/EBITDA・FCF利回りと組み合わせて、「良い企業を適正な価格で買う」 ことを意識しましょう。
ROICの調べ方
米国株のROICは、次のような方法で確認できます。
・証券会社の銘柄分析ツールや企業財務データのページ
・海外の財務データサイト(ROICや過去推移を掲載)
・企業の年次報告書(10-K)から自分で計算する一部の米国企業は、決算説明資料で自社のROICを開示しています。経営陣がROICを重視しているかどうかも、株主を意識した経営かを判断するヒントになります。
まとめ|ROICで「価値を生み続ける企業」を見つけましょう
・ROIC = NOPAT ÷ 投下資本。事業全体の稼ぐ力を測る
・借入や自社株買いに左右されにくく、ROEの弱点を補える
・ROICがWACCを上回る企業は、成長するほど価値が高まる
・高ROICが長く続く企業はモートを持つ可能性が高い
・割安度は判断できないため、バリュエーション指標と併用するROICは、長期で持ち続けたい「本物の優良企業」を見つけるための強力な道具です。気になる銘柄があれば、まずは過去5年分のROICを調べ、同業他社と比べるところから始めてみましょう。
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本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資勧誘ではありません。投資は自己責任のもとで行ってください。制度の詳細は金融庁公式サイトをご確認ください。
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