この記事の要点
- はじめに|「この株価は、どれだけの成長を前提にしているのか?」
- 逆DCFとは?DCF法との違い
- 逆DCFの計算手順【4ステップ】
- 具体例:架空のA社で期待成長率を逆算してみよう
- 前提条件(前回のDCF法の記事と同じA社)
カテゴリ:米国株・財務分析・バリュエーション
はじめに|「この株価は、どれだけの成長を前提にしているのか?」
前回の記事では、将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を現在価値に割り引いて理論株価を求めるDCF法を解説しました。ただし、DCF法には「成長率や割引率の前提を少し変えるだけで、結果が大きく動いてしまう」という弱点がありました。
そこで役に立つのが、今回のテーマである逆DCF(リバースDCF)です。逆DCFは、DCF法の計算を「逆向き」に使います。将来の成長率を自分で予想するのではなく、今の株価から逆算して「市場はこの企業に何%の成長を期待しているのか」を読み解く方法です。
自分で将来を当てる必要がないため、DCF法よりも初心者が使いやすいのが大きな魅力です。この記事では、前回と同じ架空企業「A社」を使って、逆DCFの考え方と計算手順、実践で使うときのコツまで解説します。
逆DCFとは?DCF法との違い
DCF法と逆DCFの違いは、「何を入力して、何を答えとして求めるか」です。
【DCF法】
入力:将来の成長率・割引率など(自分で予想)
答え:理論株価 → 今の株価と比べて割安か割高かを判断
【逆DCF】
入力:今の株価・割引率など(株価は市場で決まっている)
答え:株価に織り込まれた期待成長率 → その成長が現実的かを判断未来の成長率をピタリと当てるのはプロでも困難です。一方で「年20%成長が必要」と言われれば、それが現実的かどうかは過去の実績や業界の成長率と比べて判断しやすくなります。予想する問題を「判断する問題」に置き換えるのが、逆DCFの本質です。
逆DCFの計算手順【4ステップ】
ステップ1:現在の株価から時価総額を出し、純有利子負債を足して企業価値(EV)を求める
ステップ2:直近のFCF・割引率(WACC)・永久成長率・予想期間を決める
ステップ3:DCFで計算した企業価値が、ステップ1のEVと一致する「成長率」を探す
ステップ4:求めた期待成長率を、過去の実績や業界の成長と比べて評価するステップ3は手計算では大変ですが、Excelやスプレッドシートの「ゴールシーク」機能を使えば、成長率を自動で探してくれます。
具体例:架空のA社で期待成長率を逆算してみよう
前提条件(前回のDCF法の記事と同じA社)
現在の株価 :100ドル
発行済株式数 :20億株
純有利子負債 :200億ドル
直近のFCF :100億ドル
割引率(WACC) :8%
永久成長率 :2.5%(6年目以降)
予想期間 :5年ステップ1:市場がつけている企業価値(EV)を求める
時価総額 = 100ドル × 20億株 = 2,000億ドル
企業価値(EV) = 2,000 + 200(純有利子負債)= 2,200億ドルステップ2・3:EVが2,200億ドルになる成長率を探す
今後5年間のFCF成長率を変えながら、DCFで計算した企業価値が2,200億ドルに一致する点を探します。計算すると、答えは次のとおりです。
今後5年間のFCF成長率 ≒ 年6.3%
(内訳)5年間のFCFの現在価値 :約477億ドル
ターミナルバリューの現在価値:約1,723億ドル
合計(企業価値) :約2,200億ドルつまり、株価100ドルのA社は、「今後5年間、FCFが年6.3%程度で成長する」ことを市場が織り込んでいると読み取れます。
ステップ4:その期待は現実的かを判断する
前回の記事では、A社のFCF成長率を年10%と予想して理論株価約118.6ドルを求めました。もしA社の過去5年のFCF成長率が年10%前後で、今後も事業環境が大きく変わらないと考えるなら、市場の期待(年6.3%)は控えめです。この場合、A社は割安の可能性があると判断できます。
株価ごとに「織り込まれた成長率」を比べてみる
同じA社でも、株価が変わると市場が織り込む期待成長率は大きく変わります。
株価が2倍の200ドルになると、正当化に必要な成長率は年6.3%から年22.3%へと3倍以上に跳ね上がります。高成長株の株価が、決算で成長率がわずかに鈍化しただけで大きく下がることがあるのは、このように株価にすでに高い期待が織り込まれているからです。
もっと手軽に|FCF利回りを使った簡易版の逆DCF
スプレッドシートを使わずに、ざっくり期待成長率をつかむ方法もあります。シリーズ⑤で解説したFCF利回り(FCF÷企業価値)を使い、「一定の成長率がずっと続く」と仮定する簡易式です。
織り込まれた永久成長率 ≒ (割引率 − FCF利回り)÷(1 + FCF利回り)
【A社の例】
FCF利回り = 100 ÷ 2,200 ≒ 4.5%
期待成長率 ≒ (8% − 4.5%)÷ 1.045 ≒ 3.3%(永久に続く成長率)FCF利回りが割引率より低いほど、市場は高い成長を期待していると判断できます。逆に、FCF利回りが割引率に近い、またはそれ以上であれば、市場は「ほとんど成長しない」と見ている可能性があります。銘柄をざっと比較するときの入り口として便利です。
期待成長率が「現実的か」を判断する3つの視点
逆DCFで求めた数字は、それ単体では意味を持ちません。次の3つと比べて評価しましょう。
視点1:過去の成長実績と比べる
過去5〜10年のFCFや売上の成長率と比べます。織り込まれた成長率が過去の実績を大きく上回っている場合は、期待先行で割高の可能性があります。
視点2:業界・市場全体の成長率と比べる
業界全体が年5%で成長している中で、1社だけが年25%成長を続けるには、シェアを大きく奪い続ける必要があります。業界の成長率や市場規模に照らして無理がないかを確認しましょう。
視点3:アナリスト予想や会社のガイダンスと比べる
会社が示す中期目標やアナリストのコンセンサス予想と比べて、市場の期待がそれより高いのか低いのかを確認します。
逆DCFを使うときの3つの注意点
注意点1:割引率の設定で結果が変わる
逆DCFでも割引率の影響は残ります。A社(株価100ドル)の場合、割引率を変えると織り込まれた成長率は次のように変わります。
割引率7% → 期待成長率 年1.7%
割引率8% → 期待成長率 年6.3%
割引率9% → 期待成長率 年10.4%割引率は低く設定しすぎず、米国大型株であれば7〜10%程度の範囲で複数パターンを計算しておくと安心です。
注意点2:予想期間の長さで成長率が変わる
同じ株価100ドルでも、高成長が続く期間を5年ではなく10年と仮定すると、必要な成長率は年4.6%に下がります。「何年間で何%」とセットで考えることが大切です。
注意点3:FCFが赤字・不安定な企業には向かない
逆DCFはFCFを出発点にするため、FCFが赤字の成長株や、景気で大きく変動する企業では使いにくくなります。そうした企業には、シリーズ⑧で解説したPSRやルール・オブ・40など、別の指標を組み合わせましょう。
まとめ|逆DCFは「市場の期待」を見える化する道具
・逆DCFは、今の株価から市場が織り込む期待成長率を逆算する方法
・将来を予想する問題を「その期待は現実的か」を判断する問題に置き換えられる
・株価が上がるほど、正当化に必要な成長率は急激に高くなる
・過去の実績・業界の成長率・会社予想の3つと比べて評価する
・割引率や予想期間で結果が変わるため、複数パターンで確認する「良い会社」でも、株価にすでに高すぎる期待が織り込まれていれば、良い投資にはならないことがあります。逆DCFを使えば、その期待の大きさを数字で確認できます。DCF法やFCF利回りとあわせて使い、「良い会社を、妥当な価格で買う」判断に役立ててください。
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本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資勧誘ではありません。投資は自己責任のもとで行ってください。制度の詳細は金融庁公式サイトをご確認ください。
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