この記事の要点
- はじめに|「配当利回りが低い=株主に冷たい」とは限りません
- 株主還元利回り(シェアホルダー・イールド)とは
- 基本の計算式
- より厳密な「ネット」の計算式
- 配当利回りとの違いを具体例で確認しましょう
カテゴリ:米国株・財務指標・株主還元
はじめに|「配当利回りが低い=株主に冷たい」とは限りません
米国株の銘柄を調べていると、「利益は大きいのに配当利回りは1%未満」という企業がたくさん見つかります。配当利回りだけを見ると、こうした企業は株主還元に消極的に見えるかもしれません。
しかし米国企業は、配当と並んで自社株買いを主要な株主還元の手段として活用しています。配当利回りだけでは、企業が株主にどれだけ現金を返しているかの半分しか見えていないことがあるのです。
前回⑪では、逆DCFで「今の株価に織り込まれた市場の期待」を読み解く方法を学びました。今回⑫では、企業が実際にどれだけ株主へお金を返しているかを測る株主還元利回り(シェアホルダー・イールド)と、あわせて使いたい総還元性向の見方をわかりやすく解説します。
株主還元利回り(シェアホルダー・イールド)とは
株主還元利回りとは、企業が1年間に配当と自社株買いで株主へ返したお金の合計を、時価総額で割った指標です。「もしこの会社を丸ごと買ったら、毎年どれくらいの現金が株主に戻ってくるか」をイメージするとわかりやすいです。
基本の計算式
株主還元利回り(%)
=(年間配当総額 + 年間自社株買い額)÷ 時価総額 × 100
分解すると
= 配当利回り + 自社株買い利回りより厳密な「ネット」の計算式
自社株買いをしていても、同時に従業員への株式報酬(SBC)などで新しい株を発行していると、株数はあまり減りません。そのため、実務では次の「ネット」ベースで見るのがおすすめです。
ネット自社株買い額 = 自社株買い額 − 新株発行額(株式報酬の行使など)
ネット株主還元利回り(%)
=(配当総額 + ネット自社株買い額)÷ 時価総額 × 100数字はキャッシュフロー計算書の「財務活動によるキャッシュフロー」に載っている「配当金の支払い」「自社株買い(Repurchase of common stock)」「株式発行による収入」から確認できます。
配当利回りとの違いを具体例で確認しましょう
架空の2社で比べてみます。どちらも時価総額は1,000億ドルです。
【A社:配当重視型】
配当総額:40億ドル
自社株買い:5億ドル
新株発行:1億ドル
【B社:自社株買い重視型】
配当総額:10億ドル
自社株買い:60億ドル
新株発行:15億ドル配当利回りだけで見るとA社が4倍も魅力的に見えますが、自社株買いまで含めるとB社のほうが多くの現金を株主に返していることがわかります。一方で、B社は株式報酬による新株発行も多いため、グロスとネットの差が1.5%もあります。「グロスの数字だけで判断しない」ことが大切です。
自社株買いが株主に還元になる仕組み
自社株買いでは、株主の口座に直接お金が振り込まれるわけではありません。それでも還元になる理由は次のとおりです。
① 発行済み株式数が減る
② 1株あたり利益(EPS)や1株あたりFCFが増える
③ 同じPERが維持されれば、株価の上昇要因になる
④ 残った株主の持ち分比率が自動的に高まる配当と自社株買いの比較
日本の投資家が米国株の配当を受け取る場合、米国と日本で二重に課税されるため(外国税額控除で一部取り戻せる場合があります)、税の繰り延べ効果がある自社株買いは長期投資家にとって効率の良い還元方法といえます。
株主還元利回りの目安
業種や成長段階によって適正水準は異なりますが、おおまかな目安は次のとおりです。
2%未満 :還元より成長投資を優先している段階(成長株に多い)
2〜4% :市場平均並みの還元水準
4〜7% :還元に積極的な成熟企業
7%以上 :非常に高い。持続可能か、借金で賄っていないか要確認S&P500全体で見ると、配当利回りはおおむね1%台にとどまる一方、自社株買いを含めた還元利回りはその2倍前後になる年が多いとされています。米国株では、配当利回りだけで「還元が少ない」と判断するのは早計です。
あわせて見たい「総還元性向」
株主還元利回りが「株価に対してどれだけ返しているか」を示すのに対し、総還元性向は「稼いだ利益のうちどれだけを返しているか」を示します。
総還元性向(%)=(配当総額 + 自社株買い額)÷ 純利益 × 100
FCFベースで見る場合
FCF還元率(%)=(配当総額 + 自社株買い額)÷ フリーキャッシュフロー × 100総還元性向が毎年100%を超えている企業は、⑥で学んだD/Eレシオやネット有利子負債/EBITDA倍率もあわせて確認しましょう。借金を増やして自社株買いを続けている場合、金利上昇や業績悪化の局面で還元を続けられなくなるリスクがあります。
株主還元利回りを使うときの3つの落とし穴
① 株式報酬による希薄化を見落とす
テック企業などでは、自社株買いの多くが株式報酬で増えた株数を打ち消すために使われていることがあります。発行済み株式数が5年前と比べて本当に減っているかを必ず確認しましょう。
チェック方法
・5年前の発行済み株式数(希薄化後)と現在を比較
・年平均で1〜3%減っていれば、実質的な還元が効いている
・ほとんど減っていない場合、自社株買いは希薄化の穴埋めにとどまっている② 割高な株価での自社株買い
自社株買いは「自社の株を買う投資」です。本来の価値より高い株価で買えば、残った株主の価値はむしろ目減りします。⑩・⑪で学んだDCFや逆DCFの考え方で、株価が割高すぎないかもあわせて確認すると判断の精度が上がります。
③ 1年だけの数字で判断する
自社株買いは配当よりも金額の変動が大きく、ある年だけ大規模に実施することもあります。3〜5年の平均値で株主還元利回りを確認するのがおすすめです。
実践チェックリスト
[ ] 配当利回りと自社株買い利回りを分けて確認したか
[ ] 新株発行を差し引いたネットの還元利回りを計算したか
[ ] 発行済み株式数が数年単位で減っているか
[ ] 総還元性向・FCF還元率が100%を継続的に超えていないか
[ ] 還元の原資が借金ではなくFCFで賄われているか
[ ] 3〜5年平均で安定した還元が続いているかまとめ
・株主還元利回り=配当利回り+自社株買い利回り
・米国株は自社株買いが多く、配当利回りだけでは還元力を過小評価しやすい
・株式報酬による新株発行を差し引いた「ネット」で見るのが大切
・総還元性向やFCF還元率で、還元が持続可能かを確認する
・発行済み株式数の推移と、数年平均の数字で判断する株主還元利回りは、「この企業は株主のためにどれだけ現金を使っているか」を一目で把握できる便利な指標です。これまで学んだFCFや財務健全性の指標と組み合わせて、還元が持続可能な優良企業を見極めていきましょう。
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本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資勧誘ではありません。投資は自己責任のもとで行ってください。制度の詳細は金融庁公式サイトをご確認ください。
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